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『恐るべき遺産 裸の影』@ポレポレ東中野

ポレポレ東中野若松孝二監督の「恐るべき遺産 裸の影」を観て来ました。

1964年の作品で、今回が50年ぶりの上映だとのこと。この映画はフィルムが現存しないと言われていた幻の作品ですが、最近、あるコレクターの方が亡くなり、ご遺族がそのコレクションについてどうするかをフィルムセンターに相談したところ、コレクションの整理の最中に本作品のフィルムが発見されたんだそうです。フィルムはかなり傷んでいたのですが、現存する最後のフィルムだということで、デジタル化され、今回の上映となったそうです。もしも、コレクターのご遺族がフィルムセンターに依頼せずに、フィルムを破棄していたら、この作品は永遠に誰も観られない正しく幻の作品になっていましたね。コレクターのご遺族がきちんとフィルムセンターに管理を依頼されたことに、ただただ感謝、感謝です。

この作品は、原爆症に悩む女子高生を描いた非常に重たい作品です。公開時は、終戦から18年程度しか経っていない時期でしたから、ちょうど主人公と同じように、ご両親の被ばくにより、ご自身も原爆症になった方がたくさんいらっしゃったのではないでしょうか。若松監督は、このとき28歳。晩年期まで続く「怒り」という若松監督の映画を作る原動力が、この作品にも現れています。
また、腕立て伏せをする女子高生を後ろからのアングルで映し出すなどなど、エロに対する姿勢も若松監督ならでは。この作品は、女子高生が集団でお風呂に入っているシーンではっきりと裸が映し出されているのですが、64年という時代背景もあり、公開時には、一大スキャンダルとなり、かなり物議を醸し出したそうです。
ただ、上映後に行われたトークショーで塚本晋也監督も指摘されてましたが、ピチピチしたお色気シーンと原爆症のシリアスなシーンとの対比が、部活に打ち込んでいた普通の女子高生が直面した悲劇をより深く映し出しているように思います。
 
たまたま、この映画を観た日に、同じく原爆を扱った作品である「はだしのゲン」について、次のようなニュースが話題になりました(下記の引用は中國新聞の記事から)。
 原爆の悲惨さを描いた漫画「はだしのゲン」の描写が過激であるとして、松江市教委が昨年12月、市内の小中学校に学校図書館での子どもの閲覧を制限し、貸し出しもやめるよう要請していたことが16日、分かった。出版物の表現の自由に行政が介入する異例の事態といえ、議論を呼びそうだ。
 「はだしのゲン」は、昨年12月に亡くなった広島市出身の漫画家中沢啓治さんの代表作。松江市教委が「子どもの発達上、悪影響を及ぼす」と判断したのは、汐文社(東京)発行の「はだしのゲン愛蔵版」1~10巻のうち、後半の6~10巻。中国大陸での旧日本軍の行動を描いたシーンでは、中国人女性の首を切ったり性的暴行を加えたりする場面があった。
 市教委によると、昨年12月に小学校全35校、中学校全17校を対象に開いた校長会で、本棚に置かず倉庫に収める「閉架」とするよう口頭で求めた。同時に、貸し出しもしないよう伝えた。作品を所有する各校は要請を受け入れ、閲覧を制限しているという。

はだしのゲン」には、たしかに残酷なシーンがあると思います。ただ、その残酷なシーンは、戦争や原爆によって引き起こされた悲劇を描くうえで必然性のある描写なのではないでしょうか。仮に必然性のあまりない描写であったとしても、「はだしのゲン」の作品の一部の表現の問題性を理由に閉架措置を採ることは行きすぎなのではないでしょうか。

ぼくも「はだしのゲン」は、小学生の頃に児童文庫みたいなところで借りて読んだクチですが、子供の頃にあの作品に触れることができたのは、たいへん貴重な経験であったと思います。無料で借りることのできる機会がなければ、小学生の頃に「はだしのゲン」に触れることはできなかったでしょう(話はそれますが、ぼくが小さい頃には、夏になると戦争や原爆についての悲惨さを描いた映画の無料上映が良く行われていて、ぼくも良く観に行っていました。ああいう機会は今でもあるのでしょうかね)。

 今回の「はだしのゲン」についての松江市教委のような考え方に立てば、この映画も女子高生の入浴シーンがあるからと、公開を制限されかねないかもしれません。果たして、それでいいのでしょうか。ふとそんなことも考えながら、この映画を観ていました。
 
あと、この映画では、主人公が土門拳さんの「ヒロシマ」という写真集を見るシーンが主人公の苦悩を映す重要なシーンになっているのですが、そのときに流れるアヴァンギャルドな音楽が主人公の女の子の心理描写をうまく表していて秀逸でした。観客に対して広島で起こった現実の悲惨さを突き付けてくるシーンだなと思います。ちょうど、土門拳さんの「ヒロシマ」の写真展土門拳記念館で開催されているようです。とても観たいですが、山形なので、ちょっと行けそうにないです。
 
なお、今回の若松監督の「恐るべき遺産 裸の影」は下北沢トリウッドでも上映されています。貴重な機会だと思いますので、お時間がある方は、観に行かれてはいかがでしょうか。