建築と音楽 ~エレクトロニカ以降の転換期をこえて~

美学校主催の「建築と音楽~エレクトロニカ以降の転換期をこえて~」というシンポジウムに行ってきました。

 

登壇者は、音楽家の小野寺唯さん、蓮沼執太さん、内田学さん、建築家の藤村龍至さん。建築と音楽に関しては、それぞれについて、自分の仕事でも関わりのあるところではあるのですが、両者をテーマにしたシンポジウムはあるようでいて、あまりない気がするので、わくわくしながら、聴講しに行きました。

 

まずは、小野寺さんから今回のシンポを開催するきっかけとなった「Vernacular」というコンピレーションについての紹介。Vernacularというのは、土着性という意味なんだそうですが、音楽と建築、それぞれについての土着性というものを探るというテーマで今回のシンポを開かれることになったそうです。

 

その後、蓮沼さんからは環境学のフィールドワークから音楽制作にたどり着く経緯の話、内田さんからは「枯山水サラウンディング」での試み、藤村さんからは大学や自治体を巻き込んで行われる集合知というプロセスをたどった建築の可能性の話などを伺うことができました。 

ぼくが蓮沼さんの音楽を聴き始めたのは 「POP OOGA」が発売された頃からなのですが、蓮沼さんのお話からは、「POP OOGA」よりも前の蓮沼さんのキャリアについて伺うことができて興味深かったです。あと、ライブ会場での音響、音像の話も面白かったです。

内田さんのお話からは、「八水響」「五水響」といったプロジェクトの話を伺うことができました。寡聞にしてこのようなプロジェクトについて知らなかったのですが、場の環境音楽としての機能に特化した試みにはすごく惹かれました。現地に行ってみたいなと思います。

 藤村さんのお話でなるほどと思ったのは、藤村さんが設計を行っていくときに自ら課している3つの原則(1.ジャンプしない、2.枝分かれしない、3.後戻りしない)です。藤村さんは、設計を行う際に、最初にあるモデルを作り、法律の問題、費用の問題、施主の意見といった1つ1つの問題を解決しながら、どんどんモデルを変化させていって、模型を仕上げ、設計をしていくそうです。そのときに、各問題をまとめて片付けるのではなく、1つの問題を解決する形の模型をその都度作っていくのだそうです(1.ジャンプしない)。そして、1つの問題を解決する際に作り出すデザインは1個にしているそうです(2.枝分かれしない)。設計をしていくことは、いろいろな可能性のうちのどれにするかを決めるという意思決定のプロセスであることから、1つの問題を解決するということは、1つの意思決定をするということなのでしょうね。おそらく、このときに、藤村さんは施主を初めとする関係者の方にきちんと意思確認をしながら、意思決定していくのだと思います。自分は、良く建築家と施主との間のトラブルについての解決を依頼されることがあるのですが、藤村さんのように、その都度、施主の意思確認を経ながら、細かいプロセスを経ながら問題解決をしていくことは、トラブルを未然に防ぐうえでも効果的なような気がしますね。そして、一度行った意思決定については、それを元に戻すということはしないのだそうです(3.後戻りしない)。

 

その後の質疑応答の中で、サウンドスケープの話になったのですが、都市計画としての建築に街の音作りを導入できないかという視点は面白かったです。

あと、質問者の方が、渋谷の街の雑踏を通り抜けて、オーチャードホールにクラシックを聴きに行くのはあまり気分が良くないというような趣旨の発言をされていたのですが、そういうふうに考える人もいるのか、なるほどなと思いました。クラシックを聴きに会場に向かう過程でも穏やかな音響の中に身を置きたいということなのでしょう。

自分としては、この価値観には、あまり共感はできませんでした。もちろん、住宅街のような場所であれば、静かな音響を求めるというのは理解できますが、渋谷のようなある種、猥雑であることを宿命づけられた繁華街の音響についてまで、ある価値観に則ってコントロールしようという考え方は、あまり気持ちの良いものではないように思いました。もちろん、それぞれ別に鳴らされる街の音それぞれの干渉をコントロールすることで、それぞれの音をきちんと別個のものとして聴ける形にすることはいいことなのかなとは思いますが。それを越えて、都市計画の一環としてサウンドスケープを”過剰に”コントロールしすぎることは、街に流れる多様な価値観を失わせ、均質化させていくものといえ、あまり面白いものではないように思いました。また、騒音問題等を抱えるクラブを排除していこうという動きにも相通じうる考え方のようにも感じます。ここは、開沼博さんが記した「漂白される社会」に取り上げられた各種問題と根底で共通しているような気もします。 

 

イベントの趣旨とは、話が少しずれてしまいましたが、建築と音楽、土着性というキーワードから、 都市計画やサウンドスケープの話まで、いろいろ考えさせていただける機会を持てたことは、自分としてもすごく勉強になりました。第2回があるのであれば、是非、また参加したいです。

あと、小野寺さんが最後におっしゃっていた建物を建てるというプロセスの中にあらかじめ音楽家が関わって行くのも面白いのではないかというのは、すごく共感しました。自分としても、建築の専門家だけではなく、他の問題の専門家も建築というプロセスにコミットしていくことで、面白いものができたり、将来想起されるトラブルを未然に防いだりすることもできるのではないかと思いました。特に自分の場合は、建築家と施主の意思疎通がうまくいかなくなった段階で相談を受けることが多いので、その前にコミットできる仕組みがあればいいなと考えることがあるんですよね。どういうアプローチをすれば良いのか、まだわからないのですが。自分の課題として考えていきたいと思います。